2020-2021 Autumn  
Chamber Music Style Op.12 / Op.13

オール・ヴィヴァルディ・プログラム〜  The Vivaldi Variations〜

 
 新型コロナウィルスの感染拡大により、あらゆる文化活動が制限されてから約半年が経ちました。

 ステージで演奏する人たちの飛沫は実際にはどのくらい飛ぶのか、弦楽器がそれならば管楽器はどのくらいなのか?といった様々な検証がようやく行われるようになり、これならやっても大丈夫、客席にこのくらいのお客さまが入っても大丈夫といった新たなガイドラインというものが出来つつあります。

 未知なるウィルスを上手く避けつつも、常に情報を上書き更新し科学的な根拠の裏付けを取ることで活動を再開させていこうという動きは、ジャンルを問わずたいへん前向きで心強いものに私には感じられます。

 東京室内管弦楽団も、やむを得ず活動を中止せざるを得ない状況ではありましたが、ようやく再開に向けての第一歩を踏み出すことになりました。本日は、再出発への旅立ちの演奏会となります。演奏者の方々も待ちに待ったであろうその瞬間への喜びを、最高の音で届けてくれるに違いありません。

 感染拡大防止のためのリモートワーク、オンラインの活用など、生活や働き方が変化しつつある中で、音楽の世界においてもオンラインでの発信の試みがいくつも行われています。新しいやり方を模索するという姿勢には共感しつつも、私たち東京室内管弦楽団は生演奏の素晴らしさ、そして同じ空間を共有するからこそ生まれる感動を何よりも大切にしたいということを第一に考えて参りました。パソコンやスマートフォンなどの機器、電波を介して届く音ではなく、同じ空間にいる演奏者が奏でる楽器の音、その振動が聴く人の鼓膜、または骨を直接震わせる、そして脳へ心へと響いていく、このことが最も大切なことだと改めて感じます。

 聖書の詩篇には「鹿が谷川の水を求めるように」という言葉があります。これは、人が神の力を慕い、鹿が谷川の水を欲するように信仰を求め喘ぐことの例えです。昨今、暗いニュースの多いこの世の中において、生演奏の素晴らしさを欲する飢えにも似た気持ちの皆さまに対して、私たち東京室内管弦楽団として一体何ができるだろうかと考えてきました。常に求められる音楽ということを掲げて活動している私たちが、では何のために音楽はあるのかという問いを突きつけられ、その答えをこれまで以上に模索する日々の連続でした。

 私自身も東京室内管弦楽団と同様、活動停止による在宅での時間が増える中、音楽、仕事、また人生そのものについても一旦立ち止まって考えることを余儀なくされました。新型コロナウィルスに感謝するつもりは毛頭ありませんが、在宅期間中、自分の中で本当に守り抜くべきことは何なのか、今後をどのように見据えるかいうことを考え直す時間となりました。転んでもただでは起きない、皆さま同じく私も東京室内管弦楽団としましても、そのようにありたいものですね。

 前述しましたように、東京室内管弦楽団の活動再開初日となる本日の演奏会、演奏者の方々の気持ちの昂りが、この文章を書いている今でも(9月11日)ちらほらと私の耳にも届いて参ります。
 私自身も観客の一人として当日の本番の演奏が待ち切れぬ思いです。東京室内管弦楽団は、これからも多くの皆さまに音楽を通じて元気と癒しを差し上げられたらと思います。同時に、お客さまからはあたたかな眼差しと拍手をいただくことが何よりの喜びであり、そのような音と心の交流の場を一つ一つ丁寧に作っていくかけがえのなさ、大切さを改めて噛みしめています。一般社団法人・東京室内管弦楽団の理事、またプリンシパルコンダクターとして、楽団を代表致しまして、この場をお借りしまして皆さまにご挨拶申し上げる次第でございます。
 本日はご来場、誠にありがとうございます。
 
 
2020年9月19日
 
東京室内管弦楽団理事・プリンシパルコンダクター
指揮者 橘直貴

 
 
 
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