札幌の「フィラルモニカ・マンドリーニ・アルバ・サッポロ」(旧「ムジカ・クラシカ・T」)の皆さんと共に、私はこれまで年に一度の演奏会を長らく重ねて参りました。ある年、やむにやまれぬ事情により当時のコンサートマスターが演奏会に出られなくなってしまいました。

 ご存知のように、コンサートマスターによってオーケストラの雰囲気も音色も180度変わります。柴田高明さんをゲストコンサートマスターとしてお呼びしたらよいのでは?というアイディアを思いついたのは、万策尽きかけたその時でした。それが叶って数年経ったある日のことでした。リハーサルは午後から、午前中には柴田さんによるレッスンがあるとのことで、私も顔を出させていただきました。メンバー一人一人の音や奏法を丁寧にチェックしアドヴァイスされる柴田さんの姿に、教わるということの大切さや必要性、また楽しさを私も改めて感じたのでした。そしてその時、マンドリンとマンドリン音楽を取り巻く世界においても、日本のトップレヴェルのレッスンを受けながらアンサンブルやオーケストラの魅力を深めることができる場を提供したいと思い立ったのでした。

 構想から数年が経ち、主旨に賛同し快く講師を引き受けて下さった演奏家の皆さんや、この全日本スーパーユースマンドリンオーケストラ(以下、スーパーユース)を運営して下さる静岡の皆さんの存在なくして、今回のスーパーユースは成り立っておりません。また、プログラムに広告を出して下さった団体各位にも心からの御礼と感謝の気持ちを申し上げる次第です。このようにたくさんの皆さまに見守られてのスーパーユースの船出となります。私自身誠に感無量でありますが、一方で身の引き締まる思いです。

 何故、今回静岡での開催となったのか、ということについてここに触れておきたいと思います。静岡という場所は、関東、関西圏からも比較的行きやすく、何より地元には優れた、そして熱心な愛好家の方々が多くいらっしゃいます。また、私自身が静岡の、静岡マンドリン愛好会を中心とする愛好家の方々と面識があったこと。そして関東、関西という二大大都市圏におけるマンドリンを取り巻く社会にある派閥のようなものや特定のグループの影響を受けない地が必要であったこと。更には前述しました通り、今回事務局を引き受けて下さった優秀な人材が静岡にいたことなど、静岡が元来魅力的な土地であることに加えて、最適な環境がいくつもあったということです。

 今回、ご参加下さった受講生、聴講生の皆さんは、このスーパーユースにおける第一期生となります。単年で学ぶこともそれはそれで意味のあることでしょう。しかし、日本のみならず世界で通用する演奏者を育てていくという観点からは、今後の受講をも見据えて今回の3日間を有意義に過ごしていただけたらと願っています。

 これまで書いて参りましたように、スーパーユースが教えを請う場であることは間違いありません。しかし、学んだことを自らの演奏において表現できなければ意味はなく、最後に頼るべきものはやはり自分です。そのためにも、本日の最終日に演奏会が公開されます。聴いて下さるお客さまは、お友だちやご家族だけではないでしょう。会場にお越し下さった全ての皆さまにマンドリンという楽器の素晴らしさ、そして音楽の素晴らしさを伝えられるかどうかは、受講生の皆さんの腕にかかっているといってもよいでしょう。学んだことを活かす場が用意されていることこそが、スーパーユースの一番の特徴です。

 音楽大学にマンドリン科が創設されたり、マンドリン属の楽器やギターなどをアカデミックな環境で学べる場が日本全国では少しずつ増えているようです。そしてこの傾向は今後益々広がっていくことでしょう。時代が刻々と変わりつつある中でこのスーパーユースが、次世代を担う素晴らしい人材を育てる最先端の場として更に発展していくことを願っております。
 

 
 
2018年8月19日
指揮者  橘直貴