東京室内管弦楽団 年始のご挨拶より
 
 
 明けましておめでとうございます。

 東京室内管弦楽団では、昨年も音楽を通じて本当にたくさんの皆さまとの心の繋がりや交流が持てました。とてもありがたいことだなと、年の瀬のひととき一つ一つの公演を思い返しておりました。そして、今年もまた新たな出会いや感動の瞬間を分かち合えることに期待が膨らみ、今から既にワクワクしております。

 私たちは親しみと愛情を込めて当・東京室内管弦楽団のことを東室(とうしつ)と呼んでおりますので、この文章においても以下、東室と書いて参ります。東室は創立90周年を迎える歴史ある楽団として息の長い活動を続けて参りました。長い年月において蓄えてきたもの、積み重ねてきたものが数多くあります。特定のレパートリーに捉われない東室の多様性こそがこのオーケストラの可能性を今後更に高めることと想像します。これを財産というならば、楽団に保管されている実に数多の楽譜(レパートリー)、また普段からそれらの楽曲を最高の形で音にできる優れた楽団員の方々の存在です。楽団にとって節目ともなる今年、そしてこれからの10年は、過去の財産を最大限に活かし、東室の実力と魅力の更なるレヴェルアップに努める時間ではないかと考えています。

 具体的に書いてみます。

Theファンタジーオブクラシックス、チェンバーミュージックスタイル、ラグジュアリークラシックス、平日マチネなどの楽団主催公演は、それぞれの公演コンセプトに従って東室としての魅力や実力を世に問う、そして楽団としての存在意義を示す主幹公演です。また、ぼくとわたしのコンサートデビューといった、未就学児と両親の方々を対象とした主催公演を行っていることも東室の大きな特徴を示しています。

ゲームや映画音楽、またはセミクラシックやイージーリスニングなど、これらは一括りにはできませんが、クラシック作品以外の膨大なレパートリーこそが東室の一つの特徴といってもよいでしょう。遺産ともいえる素晴らしいアレンジを施された作品の数々、それは時に聴く者の郷愁を誘い、一方ゲーム音楽では常に時代の先端を先取りし臨場感溢れるサウンドで聴かせることができます。最新のアレンジも東室の魅力と可能性を更に高めています。思い起こせば、ファミリーコンピュータが普及した時代のゲーム音楽を初めてオーケストラで演奏したのは東室です。

楽団のホームページには掲載されないことが多いのですが、しかし東室として実はとりわけ大切に考えている公演は学校公演、いわゆる音楽鑑賞教室です。子供たちや若者に音楽の楽しさ、素晴らしさを伝えたい。若い人たちの心を内面から豊かに育てたい、東室はその強い想いを持ち、年間数多くの音楽鑑賞を行なっております。

 各公演の中には、主催公演はもちろんのこと、依頼公演については他ジャンルのアーティストとの共演も含めて、実に多岐に渡る内容が含まれます。いずれの公演につきましても、主催者の方々の想いをしっかり受け止めて、お客さまのみならず、何より主催者の方々にとりましても期待以上の成果をお聴かせしたいと思います。

 オーケストラという演奏形態のみならず、室内楽やソロなど、求められた場所に常に最高のものをお届けするのが東室です。主催者の方々と密に連絡を取り合いながら、如何にすれば楽しいかという公演内容を考えたり事務的なやり取りも含めつつ、一つの公演を成立させるためには実に多くの人の力が必要です。各公演の制作部門でもある良心的な事務局の存在も東室の強力な武器の一つです。事務局と演奏家が同じ方向を向き、適度な距離感を保ちつつ共に活動を進めていけることで、他の楽団には為し得ない親密な公演が創れるものと思っております。

 演奏がいかに情熱溢れるものであっても、プロフェッショナルとして高い水準の演奏でなくてはいけません。優れた企画と内容は、素晴らしい演奏の上に成り立つもの、東室として更に演奏の質の向上を図りたいと思います。それには先ず、プリンシパルコンダクターとしての私自身の弛まぬ努力と成長なしには東室の発展もありません。多くの方々に愛される楽団にしていくためにも、素晴らしかったといっていただける公演を、楽員、制作の皆さんと協力しながら重ねて参ります。今後とも東室を応援していただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

 こうしている内にも、早速1月5日には富山県新川文化ホール、6日には高岡文化ホールで、未就学児の皆さんや親御さんに楽しんでいただける「ぼくとわたしのコンサートデビュー」公演(主催公演)があります。楽しい音楽会をお届けしますので、地元の皆さま、是非とも足をお運び下さい。

 少し自分のことも書かせていただきたく思います。この年末年始、束の間のお正月休みを実家の札幌にて過ごしました。元旦には、近くの神社に初詣に行ったり、ここ毎年恒例になっている定山渓温泉への宿泊など、月並みではありますが家族との穏やかな時間を過ごして、充電することができました。

 実は、私の年老いた父親が昨年11月に、突然心臓のバイパス手術というものを受けることになりました。幸いにも手術は上手くいったようで回復ぶりには目を見張るばかりですが、元旦の日、恒例の家族で温泉に一泊するイベントがありました。温泉では、手術後初めて、首の下からお臍までチャックを閉じた跡のような縫合跡が、そして右脚ふくらはぎからは心臓に移植するための血管を3本取った痕が生々しく残っておりました。加えてこの数年週に3回通っている透析のために、腕には夥しい注射痕でブクブクに膨れた腕が私の目に映りました。その満身創痍といえる父親の身体を見て私は鳥肌が立ちました。いろいろなことを覚悟しなくてはいけない年代に自分自身が差し掛かったことを意識しつつ、私が父親に掛けて上げられた言葉は、「頑張ったね」、、、たったそれだけでした。

 身内も含めた人の繋がりの大切さを思い知るこの頃。
 公演を楽しんで下さる多くの皆さん、そして東室の素晴らしい仲間の皆さんとも出会えたご縁を大切にしながら今年も頑張って参りたいと思います。

 それでは、2019年も皆さまにとりまして素晴らしい一年になりますことをお祈りしています。それぞれの公演会場でお目に掛かれますことを心より楽しみにしています。
 
 
 
 2019年1月1日
 東京室内管弦楽団プリンシパルコンダクター
 
 橘直貴