立春を過ぎたとはいえ、北国のまだまだ雪深いこの季節、今日も私たち「フィラルモニカ・マンドリーニ・アルバ・サッポロ(以下「アルバ」)2019」の演奏会にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。

 
 数年前になりますが、前身であった「ムジカ・クラシカ・T」から「アルバ」に名称を変更して活動を続けて参りましたのは、マンドリン合奏の更なる普及と質の向上に微力ながらも貢献し、地域の音楽文化の発展の一翼を担いたい、そのためにも札幌の団体であることを明記しつつ、アルバという「夜明け」の名のもとに、マンドリン合奏の夜明け、黎明という意味をも込めました。

 
 音楽の楽しみ方は、演奏する人も聴く人もそれぞれ千差万別、無限であろうかと思いますが、ここでは演奏する側の人に限って話を進めてみたいと思います。アルバは、アマチュアの楽団であります。つまり演奏者は、皆さん普段ご自身のお仕事や家事、または学業を持っており、その合間に音楽を楽しむ方々です。これを日曜音楽家、ディマンシュ(フランス語でまさに「日曜日」の意味)ともいいます。アマチュアの演奏者にとって音楽はあくまでも趣味。もっと誤解を恐れずに申せば「遊び」であります。趣味への向き合い方が各個人によってそれぞれなのは当然のことです。

 
 少し話を変えます。楽器に限りませんが、何かの物事を究めようとすると、そこには技量の壁が立ちふさがります。端的に、その物事に秀でているか否かです。プロフェッショナルならば上手いのは当たり前ですが、アマチュアですとその技量に幅があります。これも当然です。楽器に携わり積み重ねてきた年月も違えば、かけてきた時間や労力の分量、またどのような場所で研鑽を積んできたのかによっても進歩の度合いは違ってくるでしょう。何よりもご本人がどのようなスタンスで音楽に取り組んでこられたか、ということも各々の技量に大きく影響を及ぼすことでしょう。

 
 「どのようなスタンスで」と述べました。つまり音楽との向き合い方は、その人なりの意識の持ち方によって大きく変わるといえます。但しそこに一定の基準はありませんから、意識の高低は自分以外の誰かに決められるものでもありませんし、その人なりのスタンスでよろしいと思うのです。それに、仮に意識が低いのが必ずしも悪いこととも断定できません。

 
 このようなことがございました。
 私が昨年ご一緒したとても上手な、とある東京の老舗アマチュアオーケストラの皆さんと、素晴らしい演奏会を終えたその打ち上げの席でのこと。私の真向かいに座られた楽団の代表の方が私に、「アマチュアオーケストラほど安上がりで素晴らしい趣味はないと思う。例えば月に一度ゴルフに行き、グリーンに出てプレーした後は宿泊して行き帰りの交通費もかけたら一体幾らになると思いますか? アマチュアオーケストラは、メンバーになって練習に行けば、自分の椅子も楽譜も用意され、仲間と楽しい音楽ができ、トレーナーが音楽の素晴らしさを教えてくれて、半年に一回(その楽団は、定期演奏会が年ニ回ある)必ずこうして美味しいお酒が飲めるのです」と仰っていました。
 なるほど上手いことを仰るものだと、私は感心して聞いていたことを思い出します。

 
 オーケストラは、たくさんの人々の集い。さまざまな価値観を受け容れて一つの大きな組織となるべきです。上手い人だけを受け入れ、そうでない人を排除するような楽団の音楽は、実際の演奏は確かに上手いかも知れませんが、偏狭な価値観は必ずその楽団の音楽性として現れます。バリバリと弾ける方は前で音楽的な要求を高めて楽しめる、しかしそうでない方もそれなりに楽しめる、アルバは常にそんな楽団でありたいと思います。それに、合奏というのは面白いもので、前で弾く方々の役割と後ろで弾く方々の役割というものがあります。実際にそれぞれの場所に座ってご覧になられると分かるものですが、後ろに座ると前で弾く方々や指揮者、はたまた他のパートは随分と遠く感じるものです。実際の音には時差も生じます。後ろでこっそり弾くのも、実はそれはそれで結構楽しいものです。

 
 前で弾く方は、アンサンブルを高めていけばよいと思うのですが、合奏に加わること、それ自体が楽しいという方だっているはずです。極論を申しますと、合奏団には開放弦だけ弾く方が混じっていたっていいのです。そのようにして合奏団は成り立ちます。目線を変えれば、これってたくさんの人が住むこの人間社会そのものではないでしょうか?

 
 ただ一つ、アルバのメンバーがその場で言葉にせずとも共有し認識しているであろうことを、敢えて文字にしてみたいと思います。それは、

 
 「真剣に遊ぶ」

 
 ということです。私にはそのような仲間がいることを誇りに思いますし、これこそが音楽を演奏することの本質ではないでしょうか? そのスタンスとはつまるところ、プロフェッショナルと呼ばれる人種にとっても何ら変わるところがないものだと考えます。真剣に何かに取り組んでいる人は、常に美しいものです。

 
 生活の中における音楽や楽器への向き合い方は、人生のそれぞれのシーンにおいて優先順位が入れ替わって当然のことと思います。しかし、アルバに集まる人々は願わくば、技量に関わらず生活における音楽の優先順位の高い方が集まってくる、そんな方々を懐広く受け容れる集団でありたい、ただそのことだけを強く感じる今日この頃です。

 
 この度も、ゲストコンサートマスターとして、関西から柴田高明さんが今日の本番に至るまで何度も札幌に駆け付けて下さいました。柴田さんが来札されると大雪が降るというジンクスができつつあります。また、日々の大切な練習は、今回も札幌在住の吉住和倫さんのお力なしには成り立ちませんでした。お二方は本日それぞれコンチェルトでソロを弾かれます。今回の演奏会の目玉の一つです。それから、アルバを日々運営してるくれているメンバー、そしてこの日のために日本全国から集まってくれた賛助の演奏者の皆さんにも、この場をお借りして感謝の気持ちを伝えたいと思います。
 皆んな、頑張ろうぜ!

 
 それでは、最後までごゆっくりお聴き下さい。本日もここに集まって下さった皆さまに、この文章を読んでいただけたことにも、心からの感謝をしつつ。
 
 
 
 
2019年2月24日
指揮者・音楽監督   橘 直貴