ジャパン・スーパーユース・マンドリンオーケストラ(JSYMO)は通算4回目、コロナ禍となってから2回目の開催となります。コロナ禍は、人との付き合い方や生活における様式を変えてしまいました。音楽の社会においてもコロナ禍ならではのオンライン、リモートを使った試みが行われておりますが、室内楽(アンサンブル)やオーケストラは遠隔では絶対になし得ないものです。

 JSYMOは、マンドリンとこの楽器を取り巻く世界に生きる若き演奏者の育成を目指して、2018年より始めた教育的プログラムです。アンサンブルとオーケストラにおける表現の幅が広がり、このジャンルの楽器や音楽を知らなかった人々にも素晴らしい演奏が届く社会になるように、マンドリン合奏の音が人々の生活の中にごく日常の音としてより浸透していくことを目指しています。

 これまで3回行われたJSYMOでは、素晴らしい瞬間を共有したいと、アンテナが張った若手演奏者が全国各地から数多く集まってくれました。回を重ねる毎に参加者は増え続け、パートによっては定員に達し参加をお待ちいただく状況となりました。開催されれば最も多い参加人数となった2020年は、コロナのため中止となりました。そして2022年開催の今、まだまだ人が戻ってきたとは言えません。

 未知なる感染症を人々が恐れることは致し方ないことです。ご自身の意思とは関係なく、職場や家族からこのような時期に音楽なんてするなと言われ、制限されて演奏活動を渋々我慢している人も多いと聞きます。しかしこのような社会情勢の中であってもJSYMOは、継続することに意味があります。参加を希望する若者にとって一年のブランクは、成長の過程として実際の時間以上に大きな空白となるでしょう。
 
 JSYMOは、今のところ一回完結の形を採っていますが、音楽は数日で伝え切れるものでは決してありません。伝える側も日々成長しています。数年単位での参加継続を願い、全ての参加者に講師の目が常に行き届くことを目指しています。ですから、現在参加人数が減っていることが心から残念でなりません。

 もう一つのJSYMOの持つ意味は、お仕事としての現場に集まった演奏者たちが、その場で直ぐにコミュニケーションを取れるように、また、お仕事における演奏者の欠員等が出た場合に、講師や参加者が、あの人がいたよね、ということで横の繋がりを持って仕事を遂行させていくことができるネットワークを構築しているのです。このことは業界がより強くなる意味でとても大切なことです。

 世の中のマンドリンに携わる方々は、自らのお教室や団体の中において活動が充実し完結することを目指し日々多くの努力をされていらっしゃいます。これは称賛に値することですが、一方で世界で通用する奏者を育成するプロジェクトも必要であり、そのためにこのJSYMOの存在があります。ただ現実は厳しく賛同者、協力者はなかなか増えておらず、経済的にも苦しいのが実情です。これからも多くの方々のご協力とご支援がより必要と思われます。ご理解ご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

 出る杭は打たれる、とよく言われるのが日本の社会ですが、足を引っ張り合うのではなく、世に出ようとしている人を皆で応援する社会にしたいと私は考えています。そして応援してもらった人は次の人を世に出す努力をするのです。巡り巡って、マンドリンの世界が発展することでその利益を享受できるのは、世の中の「先生」と言われる方々ではないかと思います。若手を育てる側に立つ人たちが手を結び、一旦プライドを捨てて協力し合うことはできないものだろうか、と私は考えています。

 コロナであれ何であれ、私はJSYMOをこの先も毎年きちんと続けたいと思っています。何故ならばこれがマンドリンとそれを取り巻く社会だけではなく、世の中全体をよくするものだと確信しているからです。JSYMOに参加される若き演奏者の皆さんには音楽だけではなく、音楽家としての心得もなるべくお伝えできたらと思っています。私は10年、20年後にこの世の中がどのように変化しているかということに一番の興味を抱いています。

 私たちが今起こさなくてはいけないことは、マンドリンの社会における革命です。
 そのためにJSYMOはあると信じています。
 
 

2022年8月21日
 
ジャパン・スーパーユース・マンドリンオーケストラ(JSYMO)主宰者・指揮者
橘直貴