東室ウィークリーを毎回楽しみにして下さっている皆さん、こんにちは!
新型コロナウィルスの禍が今や世界中に広がり終息の気配を見せていません。東室としても多くの演奏会が延期、もしくは中止を余儀なくされています。演奏する私たちはもちろん無念で堪りませんが、何よりも私たちの演奏を楽しみに待っていて下さっているお客さまの皆さまには、心から申し訳なく思います。
他の楽団でも同様に無念の思いを抱きつつ今という時間を必死に耐えているとは思いますが、“求められる音楽“をスローガンに日々活動している東室としては、求められつつもお客さまの期待に応えられない状況に陥っている現在のジレンマに日々悩み、苦しんでおります。先行きの見えない情勢の中ですが、しかしこのような時だからこそ、皆さんで力を合わせて協力しながらこの禍を乗り切りたいと思います。
去る3月20日のこととなりますが、東室として最も大きな活動の柱と考える二つの公演がサントリーホール・ブルーローズにて予定されておりました。一つは「シネマミュージックサロン」そしてもう一つは「ぼくとわたしのコンサートデビュー」です。東室にとってこれらの演奏会の意気込みと意味を、今日はプリンシパルコンダクターである私から、その魅力と併せてご紹介致します。
シネマミュージック、名画のワンシーンを彷彿とさせる素晴らしい音楽がいっぱいに詰まった演奏会は、東室が最も得意とするものの一つです。すぐれたアレンジャーであり指揮者でもあられた故・岩窪ささを氏による、愛に満ちた音のする編曲を施された珠玉の名曲の数々、一方で現メンバー等による、オリジナルの素晴らしさを活かしつつ、その細部に新たな光が当てられた編曲による新鮮な映画音楽、どの時代の作品をも網羅する東室のシネマミュージックコレクションの数々、そのレパートリーの広さは、世代を問わずもれなく皆さまに楽しんでいただける演奏会です。東室はこれまで本当に多くの映画音楽の演奏を手掛けて参りましたし、シネマミュージックに特化していない日々の大小さまざまな演奏会においても、これら珠玉のコレクションを随所に散りばめて、バラエティー豊かなプログラミングを構成しています。
もう一つの「ぼくとわたしのコンサートデビュー」は、0歳からのお子さんと保護者の方々が気軽に、そして素晴らしい音楽を楽しめる演奏会です。親しみやすい切り口による楽しい選曲や演出が並んでおります。しかし実は僕はお子さんはもちろんなのですが、私はお子さんを連れてこられる保護者の方々の心にまず響く音楽をお届けしたいと思っています。どうしてかといいますと、普段お仕事、子育て、育児にお忙しい保護者の方々は日々お子さんと向き合い、お子さんの成長を願い日々奮闘されていらっしゃいます。愛する我が子に素晴らしい音楽を聴かせたいと願い会場まで足を運んで下さるそんな保護者の皆さまには心からの敬意を感じます。保護者の方々の頑張りに対して、本来ならば先ず癒されるべきは保護者の方々の心でありましょう。感受性の豊かなお子さんたちの心に響くのはもちろんのことだと考えておりますが、東室としましては先ず保護者の方々が本当に喜んで下さる演奏会を作り上げてなんぼのものだと、僕も含めて東室の演奏者の皆さん、そして制作側の事務局の誰もが感じています。
シネマミュージックサロンは5月15日に、ぼくとわたしのコンサートデビューは6月27日にとそれぞれひとまず延期による開催が決まっています。世の中の情勢が好転し皆さまに楽しい音楽をお届けできるとよいのですが。
私事になりますが3月9日、急なことでしたが父が息を引き取りました。肉親を見送ることの辛さは想像を絶するに余りあるものでした。皮肉なことに、この度の情勢の中で日々のお仕事が潰れていく中で、故郷の札幌にて過ごすことができました。
このところの新型コロナウィルスの騒ぎともあいまって、何事もなく日々大好きな音楽を素晴らしい仲間と共に出来ること、そしてそれを聴いて喜んで下さる多くのお客様に囲まれていること、このことは決して当たり前のことではなく本当に幸せなことなのだな、と改めて感じでおりました。生きてあること、この世にご縁をいただいた皆さまとたとえほんの僅かなひとときであっても同じ会場で息をして、同じ音楽を共に共有することは、当たり前のようでいて実はかけがえのないことなのだ、この一ヶ月あまり自分の身の回りに起こった数々の出来事を通じて、以前よりも深く感じるようになりました。いろいろな意味で自分の価値観が少し変わったかも知れません。そして、今回の騒ぎに対する自分のあまりの無力さを嘆きます。
いや、嘆いてばかりもいられません!
この新型コロナウィルスの騒ぎが一日も早く終息して、東室の音楽を求めて下さる方々と新しい笑顔で会えますように。そのことを願って止みません。
最後になりますが、この文章を読んで下さっているのは東室のファンの皆さまだけではなく、東室を支えて下さる音楽家の皆さま、そして制作の事務局の皆さまでもありましょう。新型コロナウィルス騒ぎの終息の兆しが見えず、先行きの分からない不安の中で次々と予定されているお仕事がなくなっている今、何とかこの困難、苦境を乗り越え克服していけるよう、今は耐え忍びつつ、まだ共に素晴らしい音楽を作っていける日を心待ちにして、今はただひたすら頑張って参りましょう!
2020年4月3日
指揮者 橘直貴